東大生5人による強制わいせつ事件。しかし非難されたのは、なぜか被害者である女子大生だった――。衝撃的なタイトルとともに、事件にまつわる人々の背景を細やかに描き、女性を中心に大きな話題となっている小説。このたび、その著者である姫野カオルコさんにインタビュー。本書を書こうと思ったきっかけ、読者からの反響、また私たちはなぜ人を攻撃してしまうのかといった人間の本質についてまで、様々にお話を伺いました。

姫野カオルコ 作家。1958年生まれ。滋賀県出身。1990年に『』でデビュー。『受難』『』『』など、ストーリーに関わる人物の人生背景、心情を丁寧に生々しく描写した作品で、多くのファンを獲得。2014年に『』で第150回直木賞を受賞。最新単行本化作に『』(新潮社)がある。写真提供:文藝春秋


小説にしようと思ったきっかけは“違和感”


横浜市内のごく普通の家庭に育った神立美咲。女子大に進学した彼女は、ある日、東京大学理科Ⅰ類の学生・竹内つばさと出会い、交際を始める。しかし人間が本質的に持つ格差意識、優越感、劣等感、妬みなどから、二人の関係は歪な方向に進み始める。そしてとうとうその夜、事件は起こった――。

2016年に起こった東大生5人による女性大生への強制わいせつ事件に着想を得て書かれた小説『』。

人間の闇を生々しく描写したストーリーに、読んだ多くの人がショックを受け、一人では抱えきれずネット上にコメント。そのコメントにまた別の読者がコメントし……と拡散が止まらないほど話題となっている本書ですが、そもそもなぜこの事件を題材に小説を書こうと思われたのでしょう?

「事件が起こってニュースが流れますよね。レイプ事件であるかのように広まりましたが、私はすごく違和感を覚えました。レイプ事件ではない、と。ニュースだけでは詳しいことは分かりませんから、『何でこんな歪なことが起こったんだろう?』と気になって、裁判の傍聴に行ったのです。加害者はすでに法の裁きを受けていますから、現実の彼らについては、私が何か言うことではありません。ただ、傍聴しても『そうかなるほど』とはすっきりせず、気になり続けました。なぜ気になるのだろうと考えていると、いろんな思いが沸いてきた。そのいろんな思いを、小説にしてみようと思ったのです。」


被害者は非難されてもいい女性だったのか……?

 

小説は今年7月に発売。先にも述べたように、直後から多くの人が読後感想をSNS上にアップ、瞬く間に大きな話題となっていきました。その関心の広がりぶりは発行元である文藝春秋のプロモーション部も把握しきれず、書店では品切れが続出したほど。書いた本人ですら「驚いている」という状況ですが、これほどまでに反響があった要因は何だと思われるか、伺ってみました。

「実はこの小説を書いている間、ずっと嫌な気持ちがしていたんですね。周りからも『最近顔色が悪いよ、大丈夫?』と指摘されるほどで。それは恐らくこの小説が、誰もが持っている“闇”の部分を突きつけるものだったから。それで書いている自分も気持ちが悪くなったのでしょう」

誰もが持っている闇。作中においてその“闇”は、事件が明るみに出たときなぜか非難のコメントが被害者に浴びせられる、というシーンでさらけ出されています。

「実際に投稿されたコメントを見たのですが、本当に気持ち悪くて……。裁判の傍聴で知り合った週刊誌記者の方は、『いったんベランダに出てタバコを吸って気持ちを落ち着かせた』とおっしゃっていましたが、本で書いた内容なんてむしろ上品なくらい。実際のコメントをそのまま載せたら、とても一般書として読むに耐えないだろうな、と思ったほどです。この人たちは、被害者を、というより誰でもいいから罵りたくて書いている、という印象を受けました。でもその矛先が、本来なら同情されるべき存在である被害者に向いた。本当に不思議な感情ですよね。もちろん、被害者の本当のところは誰も知りません。もしかしたら「あの人、東大だから狙っちゃお」という女性だったのかもしれない。そうだとしてもこんなことをされていいわけはないんです」

 
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