港町がとても好きです。
 人々が行き交い、あらゆる類のものを受け入れ、洗練と猥雑が共存する…よそから来たものがすっと入り込める隙さえも、さらりと差し出してくれるような印象があります。東京生まれ東京育ちの私ですが、父方の郷里が関西の小さな漁港のある町だった上に、父の仕事が船舶に関わっていたので、度々全国の造船所に連れられて行きました。そんな理由で子供の頃から港のある町の風景に親近感があり、港町の空気が私にはなんとも居心地が良いのです。

 

 綺麗な海のある町より、人々の働く海のある町には強く惹かれてしまいます。日本には津々浦々にそんな町が沢山あるので、あちこち訪れるたび、各地の個性を探っています。あくまでも個人的な趣味としてですが。

 縁あって、山口県の宇部市に何度も訪れています。本州の南端、九州と瀬戸内の両方の文化が混ざり合った場所、どちらの風土も感じられるのに、そのどちらでもない、そこが独特で面白いのです。城があるとか、白壁に瓦屋根のステキな家々が立ち並ぶ旧街道のようなものはない町なので、風情ある町並みを求める旅行者にはスキップされがちなのですが、建築好き、工場夜景好きの方々には、宇部はまさに必見の場所です。それから、忘れてはいけません、美味しいお酒も魚もあるのです。

 

宇部には、町の中心に建築家 村野藤吾氏の作品群が点在しています。それらの建築物は見学するためだけの展示物ではなく、今も現役で使われているので素晴らしいのです。、(旧宇部銀行館)、(旧宇部興産ビル)などが代表的な建築で、特に幾度となく見学し撮影させていただいた渡辺翁記念会館には特別の思い入れがあります。築80年を超えてもなお現役の音楽ホール、宇部興産の創設者 渡辺祐策翁が、炭坑で働く人々にも音楽を聴く豊かな時間を持ってもらいたいという思いから作られたそうです。村野建築の硬質な美しさが全面的に感じられますが、照明、小物などの細かい内装に繊細なデザインが施されていて、どこまでも手抜きのない、見れば見るほど発見のある建築物です。西洋のあらゆる建築様式からの影響、折衷の妙も感じられます。この町の子供達は合唱コンクールなどでこのホールの舞台に立つそうで、市民にとっても身近な存在、理想的な形で使われている公共建築、羨ましい限りです。

 

少しだけ宇部の町の中心から離れれば、牧歌的な田園風景が広がります。美しい浜で海風にあたりながら散歩するのも気持ちよく…そしてそして、美味しい日本酒の蔵が近くに複数ありますから、時期によっては作りたてのお酒をいただくこともできます。美味しい魚が沢山あるのですが、土地ならではの酒の肴で、私の大のお気に入りは塩茹でした「ぶとエビ」。地酒を頂きながら、頭から尻尾までぽりぽりと。一皿では足りないくらいです。

 


 もう一つの町のとっておきは、広大な工場地帯の夜景です。「新世紀エヴァンゲリオン」の監督庵野秀明氏は宇部のご出身で、この圧倒的な工場地帯のイメージが、「エヴァ」の中に出てくる独特の世界観に大きく影響しているのだそうです。特に工場夜景が好きでなくても、この広大なインダストリアルワールドの迫力には感じることが様々あるはず。

 

人の力がこれだけ大規模な施設を作ったことの空恐ろしさとか、その中に身を置いた人のちっぽけさとか。地球の恵み「石炭」がこの地で掘りおこされて、人が集まり、働き、生活を支えて、町が繁栄を遂げたこと。そして、それが変容した今も「働く町」の一つの有り様を見せてくれる町、それが宇部なのです。