“暮らし”の編集者・ライターとして、多くの雑誌企画を手がけたり著書を発行している一田憲子さん。意外にも、「実は丁寧に暮らすことが下手なタイプ」と語る。だからこそ、試行錯誤の末に見出した“頑張らない丁寧な暮らし”。そこにたどり着くまでの経緯や力の抜きどころなど、忙しくても日々を楽しむための知恵をいろいろと伺った。

一田憲子 1964年生まれ。京都府生まれ、兵庫県県育ち。編集者・ライターとして活躍中。『』、『』(主婦と生活社)シリーズでは、企画から編集まで手がけている。また、日々の気づきからビジネスピープルのインタビューまで、様々な生きるヒントを届ける自身のサイト『』も好評を博している。最新著書は『』(SBクリエイティブ)がある。


忙しすぎて暮らしを楽しむ余裕ゼロに

一田さんのご自宅にて。「実は丁寧に暮らすのが下手なタイプ」と語る。

 もともとは旅のガイドブックのライターとして、その編集・ライター人生をスタートさせた一田さん。インテリア好きで、そのことを公言しているうちに、器や料理など暮らしまわりの企画に関する仕事が増えていった。

「フリーランスなら家で仕事をすることが多いですから、気持ちよく働くためにもベースとなる家を心地よくしておくことは何よりも大事。でも暮らしのライターとして軌道に乗った30代前半頃から、仕事がめちゃくちゃ忙しくなって。ある日ふと気づいたら、部屋はホコリだらけ。暮らしを楽しむための綺麗な器を買っても時間がないから包みも開けず置きっ放し、という状態だったんですよ。そこで『私、おかしいかも!?』と目が覚めたんです」

 意外に思うかもしれないが、実は当時の一田さんは、掃除が大の苦手だったという。

「部屋の隅まできっちり掃除せず、丸〜く掃除するタイプだったんです。だから私が掃除してもホコリがフワフワ舞っていて、綺麗好きだった夫がもう一回やり直しては私がムカつく、という繰り返しでした(笑)。それで暮らし関係の取材の中で、いろいろ掃除のコツを聞いていったんです。聞いたことは、帰って必ずすぐに実践してみました。そうすると、自然と続くものと続かないものに振り分けられていくんです。とは言っても、続かなかったことのほうが多いんですけど。綺麗な人の部屋を見て『私も!』と燃えて、帰るなり1時間以上掃除したら、疲れて翌日はまったく掃除しなかったり。その後、などの著書で知られるごんおばちゃまに取材したら、『掃除は1日30分まで、それ以上はダメ』というコツを授けられました(笑)」


できないものはできない!と認める

「掃除が苦手な自分」をなかなか認められない時代もあったという。

たくさんの失敗を繰り返しながら、今やすっかり掃除好きになった一田さん。掃除担当も、夫から一田さんに変わったそう!

「変われた最大の理由は、『できないものはできない』と認めたことにあったと思います。当初は暮らしのライターというプライドもあって、掃除が苦手な“ダメな自分”を簡単に受け入れられなかったんですよ。それで一気に高みに行こうとして失敗する、その繰り返しでした。何でもそうだと思うんですけど、自分の理想を下げるのって悔しいじゃないですか。当時は仕事も暮らしも全部完璧にやれるんだ!と信じていた。でも現実の私は、仕事でマックスのエネルギーを使って、あとは残っていなかったんですね。その現実を何度も突きつけられ、徐々に受け入れられるようになった。そうして完全に吹っ切れたのは、本当にごく最近です」


“頑張り過ぎない”時代の到来に助けられた

新著の「丁寧に暮らしている暇はないけれど」というタイトルには、「私も!」と大きな反響があったそう。 

そうした積み重ねを経て、この3月にを出版。そのタイトルには、多くのDecolen読者も共感を覚えたのではないだろうか。

「たしかにいろんな人のSNSを見ていると、素敵な暮らしをしている人が溢れていて憧れます。でもトークイベントなどで多くのお母さんや働く女性に触れてみると、みんな『時間がないからカット野菜ばかり購入している』、『下着なんてたたまない!』と言うんですよ。そんなに暇がないのか!と痛感して。だけどみんな、心豊かには暮らしたいと思っている。それでこの『丁寧に暮らしている暇はないけれど』という本の企画を思いついたんです」

 一田さんも職業柄、美味しいものや、暮らしの中の豊かな瞬間を写真に撮ってSNSにアップしている。が、それはごくたまに。本来はマメな性格ではなく、「また撮るのを忘れた!」ということがしょっちゅうなんだそう。

「実を言うと、10年前に著書『』を出版した頃は、まだ“丁寧に暮らしている自分”を取り繕っていたんです(笑)。『まいっか』と思えるようになったのは、世の中の風潮が変わってきたのも大きかったかもしれません。断捨離やズボラ飯に象徴されるように、だんだんと『完璧になんてできないのが普通、頑張らなくていい』という価値観に変わっていった。だから私も正直に“できない自分”をさらけ出せるようになったんです。その姿勢を支持してもらえて、むしろ私が時代に助けられました(笑)」

時間がなくても豊かに暮らすことは、「できないものはできない」と認めることから始まるのかもしれない。次回は一田さんの、心豊かに暮らすための“できないものの削ぎ落し方”についても伺ったので、ぜひご一読ください!
 

 


一田憲子 著 1380円(税別) SBクリエイティブ

家事に子育てに仕事に、と忙しい人のために、時間をかけずに家の綺麗を保ったり、おしゃれを楽しんだりする方法を授けてくれた一冊。「掃除」「片付け」「ごはん」「おしゃれ」「なんでもない時間」のテーマ別に、暮らしの編集・ライターである一田さん厳選の知恵がぎっしり詰まっている。


撮影/目黒智子
取材・文・構成/山本奈緒子