埼玉に住む普通のおばあちゃん・溝井喜久子さん。今、そのがすごいことになっています。2018年5月現在で、フォロワー数は何と9万人超え。その深いつぶやきに、「生き方が参考になる」「溝井さんのように歳をとりたい」と、若い人たちから大きな反響が寄せられているのです。83歳になった今だからこそ言える自立した価値観、そしてDecolen世代に伝えたいことを伺いました。

溝井喜久子 1934年生まれ。埼玉県出身。お茶の水女子大学理学部卒業。教師として働いた後、26歳で結婚を機に専業主婦に。76歳から始めたが話題になり、フォロワー数は約9万人を超える。今年3月に、名つぶやきを厳選した著書(ユサブル)が発売。2人の息子と2人の孫がいる。現在、ご主人は逝去され一人暮らし。

 

「やってみるのが一番よく分かる」が身上
 

 83歳の溝井喜久子さんのご自宅を訪問したのは、ある金曜日の朝10時。玄関に出迎えに来てくれた溝井さんは、「ええと、10時は講談社のDecolenさんね。今日は午後にもう1本、取材が入っているんですよ」と、iPadを操りテキパキとスケジュールを確認していた。半分近く年下の私たちより、はるかにITというものに精通しているご様子。
 その溝井さんがツイッターを始めたのは76歳のとき。友人の所属する団体がイベントを開くことになり、何とかお金をかけずにその宣伝ができないかと考えたのがきっかけだった。

「ちょうどその頃、総理大臣に就任した鳩山由紀夫さんがツイッターを始めたんですよ。それで(当時)62歳の鳩山さんができるなら私にもできるんじゃないか、と考えましてね。ところが始めてみたら、ツイッターはフォロワーがいないことには誰にも気づいてもらえず読んでもらえない、ということを知ったんですよ。そういうわけでイベント告知には失敗したのですが、その後も戦時中や戦後のこと、私自身の考えをいろいろつぶやき続けていたら、フォロワーがどんどん増えていきましてね。『面白いツイッターおばあちゃんがいる』とメディアにも取り上げられるようになって、それでまたフォロワー増につながって、今や9万人に。本当にびっくりです」

デスクトップパソコンやノートパソコン、iPadを愛用。出かけるときも、ポケットWi-Fiと一緒に持って行くのだとか。

もともと新しいものを試すのが好きで、コンピューター自体は64歳から使い始めたそう。

「夫が定年退職したのを機に、株の運用を始めたんです。それをいちいち紙に記録して管理するのが面倒だったので、エクセルを使おうと思ったのがきっかけですね。パソコンの勉強? そんなの、本をちょこちょこっと見た程度ですよ。私は何でも、とりあえずやってみるの。実際にやってみるのが、一番よく分かるわけですから。上手く使えるかしらとか、間違えたらどうしようとか、迷うことなんてないのよ」

 その考え方はコンピューターだけに限らず、これまでの人生にも反映されている。結婚して教師の仕事を辞め専業主婦となった後も、気になった事は迷う前にどんどん始めていった。

「40代はありとあらゆるお稽古ごとをやっていた」と振り返る溝井さん。

「私がDecolenの皆さんと同じ40代の頃は、子供が小・中学生であまり手がかからなくなっていましたから、お稽古ごとをいろいろ始めた時期でもありました。ちょうど家の向かいに公民館がありましたので、興味を持った教室には全部参加したの。茶道、三味線、料理、和裁、刻字、太極拳、盆栽……。 ここで習ったことは素養として生きていますけど、それ以上に、知り合った友達が財産。楽しくお喋りできる相手って、こういうところで見つかるものなんですよ。『あの人がイヤだから』とか言って抜けていく人は、お嫁さんとも折り合いが悪いことが多いの。だから習い事が続いているかいないかは、相手を見極める材料になるかもしれませんね(笑)」

 

私のツイッター上でガス抜きをしてほしい


 新しいもの、見知らぬものを受け入れることを恐れない―-。そんな溝井さんの人生観は、ツイッターのつぶやきにもにじみ出ています。そこでいくつか、溝井さんのつぶやきの中から反響が多かったものを抜粋してみました。

「お年寄りを敬いましょう、にはほんとに違和感を感じる。いるだけで周りの人は気を遣うもの。年寄りこそ周りの人に感謝の念を持つべきものと思う。そこまで生きてこられたことにも」

「そもそも、人のことはどうでもよいもの。自分のことを考えればよいのです。自分が見えない人が他人のことを四の五の言う」

「苦労は身のためになるとか、いつか報われると言う人がいるが、苦労の中身が問題なのです。苦労などしないほうがいい。自分の心身をこわしたりします。他人に向かって無責任に言う人がいますから気を付けましょう。そういう人に出会ったら言いましょう。そうですね、貴方からどうぞと」


 他にも、「初めから子に介護をしてもらおうと思うのは甘え。介護されなくても済む様に努力すべき」といった介護観や、「話が通じ合わないというのは、夫婦を続けられない大きな要素」といった結婚観をつぶやいたり……。溝井さんの育った時代を考えると、どれも驚くほど革新的な考え方と言えるだろう。

「フォロワーは50歳ぐらいの方が多いからか、リツィートが多いのは、介護、子供の自立、夫の横暴、といったことに関するつぶやきですね。親や姑の世話が大変だとか、夫が親の味方ばかりして大切にしてくれないとか。そのリツイートに対して、他のフォロワーの方がまたリツイートして、私のツイッター上で議論が始まるの。皆さん、同じ状況の人同士だと本音を言いやすいんでしょうね。そういう、言える場を作るのも私の仕事だと思っているんです」
 

ツイッターを続ける理由は、「義憤」


 多いときは1日に60回つぶやくこともあるという溝井さん。フォロワーからのリツイートにもこまめに返信するようにしているため、ツイッターに費やしている時間は「合計すると1日5時間ぐらいになる」とのこと! そこまでツイッターにエネルギーを注ぐ理由は何なのか?

「ツイッターでメッセージを発信するのは、義憤から」だと言う。

「私はね、義憤が強いんですよ。だから『お年寄りを敬え』っていう主張、あれは本当に違和感を感じます。『昔は嫁が舅や姑の世話をするのが当たり前だったんだ』と言って、いまだに自分の世話をさせようとするお年寄りが多いでしょう? それで仕事もして子育てもして介護もして、体を壊しているお嫁さんはいっぱいいる。舅や姑も悪いけど、その息子も悪い。『親を大切にするのは当たり前』とか言いながら、その世話はお嫁さんに押し付けている。私はその『当たり前』という考え方が腹立たしいのね。お嫁さんも、『昔はそうだったから』と何となく踏襲しちゃっているけど、そんなことはないの。今は栄養もいいから、歳とったってみんな元気でしょ。年金もあるから、自分たちだけで暮らしてもいけるでしょ。子が親の面倒を見るとか、夫を立てるとか、皆さんの義務じゃないですから。誰だって、自分を一番大切に考えていんですから。私はそのことを、ツイッターを通して教えてあげたいと思っているんです」

 溝井さんの世代にこう言ってもらえると、少し気持ちがラクになりますよね。溝井さんがこのようなメッセージを送り続ける根底には、「幸せか、不幸せか」は自分次第という考えがあるから。「だからこそ自分の身は自分で守る必要がある」と言うのです。それは、これから年齢を重ねていくDecolen世代にとってこそ、とても必要な考え方かもしれない。そこで溝井さんの言う「自分の身は自分で守ること」についても詳しく伺いましたので、<後編>でお届けしたいと思います!

 

<著書紹介>

溝井喜久子 著 ¥1400(税別) ユサブル

溝井さんのの中で、反響の多かったつぶやきを四章に分けて紹介。一章のテーマは「年寄りを敬えなんて冗談じゃありません」、二章のテーマは「それが世の中の心理っていうものです」、三章のテーマは「日々思うこと、感じること。」。そして四章はフォロワーからの質問に答える一問一答となっている。ツイッターでは語られていない、それぞれのつぶやきの背景にある考え方も述べられていて、Decolen世代にとっては為になる一冊。


撮影/横山翔平(t.cube)
取材・文/山本奈緒子